樋口有介『猿の悲しみ』(中央公論新社)1700円+税
風町サエのシリーズ1作目。先に2作目の『笑う少年』を読んでいたので、見知った登場人物が初対面として現れる不思議な感覚を堪能。仕事を2件並行させて人間関係がもつれていく、というのが2作に共通する構成。仕事として、目的のためには非合法手段もいとわない、という主人公の方針がこの作者として新鮮。腐れ縁となるもう1人のヒロイン、2作目では過去の一部にしか触れていなかったので、1作目の方で底が知れない危うさを堪能。オカマバーと柚木草平に山川刑事というスターシステム、後で『少女の時間』にも別の形に使われたそうで、やがて全てがつながるようになるのだろうか……という妄想。2作目にはあった英題、1作目には見当たらず、グーグル翻訳なら「Monkey's sorrow」、うん、無くてもいいな。

「イタリア語を勉強するのをやめた理由、なかなか人に言っても理解されないけれど
美しい美しい歌が、不意に「一部意味を拾える言語として」聞こえてしまったとき、私はイタリア語学習をぶん投げた

永遠に「さっぱりわからない美しい異国語」のまま響いてほしいと思っていることに気付いたんだ」