野尻抱介『ふわふわの泉』(早川書房)600円+税
以前にファミ通文庫で出した本の再文庫化。野尻抱介を読むのは久しぶりで、前に読んだのは恐らく『太陽の簒奪者』だろうけど内容は綺麗さっぱり記憶に無くて、それに比べるとこの本は楽しく読めた。理由の幾らかは、後半に登場する某キャラクターが、この作者のクレギオンシリーズにある『アフナスの貴石』を思い起こさせたからではないか。うん、あれよりもずっと話の分かるキャラになっていたけど。前半と後半とでは二部構成になっているような内容で、野尻抱介はこんな接木みたいな話を作る作家だったかな、知らない内に変わっていったのかな、それとも元々そうだったけど今まで気付かなかったのか、今回は意図的にそうしてみせたのか。あとがきに「これが本書の発端になるアイデアで」云々と出てきた部分は、読んでる最中は逆に「こういう素材があれば宇宙開発のあれもそれもどれも出来るのになあ」という発想から逆算して(ファミ通文庫に合わせてか、それとも単に作者の趣味でか)高校科学部の女子部長まで辿り着いたのかと想像していた。

「歴史のスケールで考えると
 レコード売って大もうけできたのは

・音楽が録音できるようになって
・安いメディアで大量複製ができて
・ユーザー側では複製しにくい状況があった

 というわずか数十年の瞬間的な出来事にすぎない
 牛馬による運搬がクルマに駆逐されたのと同様
 流通が変化したものが丸っと元通りになると思うのは
 自分の両手で川の流れを押し戻せると考えるようなものだ」

ふわふわの泉 (ハヤカワ文庫JA)

ふわふわの泉 (ハヤカワ文庫JA)